好きで、言えなくて。でも、好きで。
「本当に、ここで良いのか?」



大丈夫かと問う棟郷の目の前には、この間来たバー。


屋上で約束した後、行きたいところはあるかと聞いたら、ここがいいと威叉奈は言った。



退院もしてそれから数日経っており、棟郷にとってはお酒を飲んでも全く問題は無いのだが。



「ノンアルコールも作ってくれるって言ったの、棟郷さんじゃないですか。」


「そりゃそうだが…。」



この間は告白をしようと思っていたので、人の邪魔が入らない静かなここを選んだ。



ただ、威叉奈の性格上、小洒落た堅苦しいバーより居酒屋の方が落ち着くと棟郷は思っていた。


賭狗膳としている会話にも、そういう単語が聞こえてきていたからだ。



だから、ここがいいと言われた時は驚いたのだ。


今も疑問に思っているほどに。



「だって、この間は……、緊張し過ぎて味なんて分からなかったし、酔っ払っちゃって全然覚えてないし。ノンアルコールなら、酔わないから大丈夫だし。」



拗ねたように言う威叉奈は、何故か幼く見えた。
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