モモとウメと君と
見事な回し蹴り。
自分で言うのも変だけど。
男の人は、私の蹴りを顔面でくらって、
「うわっ」とうめき声をあげてバタリと倒れた。
それを見ていたもう1人の男の人は、目を丸くして怯えた顔で固まっている。
「……ふう。久しぶりの回し蹴りだけど……そこまで鈍ってないみたい」
この回し蹴りは、子供のころ空手を習っていた時に覚えた護身術。
これがなぜか楽しくて、中学まで毎日回し蹴りを鍛えていたんだけど、それが今初めて役に立った。
もう1人の男の人も片付けようと構えると、男の人はビビって倒れたままの連れの男の人を置き去りにして、声も出さずに走り去ってしまった。
あっ……しまった。
そういえば今日、ワンピースだったんだ。
こんな格好で必殺技使っちゃったなんて、すごく恥ずかしい!
でも、今更気づいてももう遅いし、まあいっかとため息をついた時…………
「愛目!」
…………ん?
この声って、まさか……………………
「弘也ぁ!こ、怖かったよぉ〜!!……うっ、ううっ……」
愛目ちゃんが、橘くんの胸に飛びついた。
「愛目!大丈夫か!?何かされなかった?痛いところはない?」
「……大丈夫っ。ううっ」
「よ、よかったあ……。ごめんな、愛目……俺が1人にしたから……」
「ううん、違うの!弘也は悪くないよ……うっ。それに、ううっ……り、立花さんが、助けてくれたし……」
愛目ちゃんが私のほうを見ると、橘くんも私を見る。
ギロッ……
その目つきは、悪かった。
「立花……ありがとう」
でも、優しかった。