カタブツ上司に迫られまして。
何だか人様の家で、朝ごはんって初めてだから、何だか面白くて不思議な気分になる。

「そう言えば鳴海さん。今日はお買い物に行くんですって?」

ほわわんとお母さんが首を傾げた。

いつの間にか、課長がお母さんに私の予定を勝手に伝えていたらしい。

「あ。はい。スーツと寝間着しか無いので……」

「じゃ、私もついて行って良いかしら?」

微笑むお母さんをまじまじと見つめる。

「え?」

「娘と買い物に行くのが夢だったのよ!」

買い物に行くのが夢? なんてささやかな夢なんだろう。でも、私は正確には娘じゃないし。根本的に何かが違うと思います。

「だって……こんな息子と買い物に行っても楽しくないじゃない?」

二人で課長を見ると、課長は何とも言えないような表情になりつつ、ご飯を食べている。

きりっとした眉は、黙っていると視線が冷たすぎて怖い感じになるんだよね。

想像してみて吹き出した。

冷たい感じの課長と、ニコニコ微笑み絶やさないお母さん。

確かに楽しくなさそうかも。

「何を買うの? あ。ちゃんと合った下着は買いなさいね?」

「は?」

「絶対にブラジャーが合ってないわ。最近の子は、本当におっぱいが大きいわよねー」

課長がお茶を吹き出し、私は目を丸くして顔を赤くする。

その様子を見ながら、お母さんは一人で頷いていた。

「腰が細いから心配だけど、安産型のお尻だわ。歩く感じからすると、適度に筋肉もついているし、スタイル抜群よね」

よね。とか、言われても……ありがとうございますでは無いと思うし。

思わず助けを課長に求めると、課長は身じろぎをした。

「い……っ行ってくる!」

居たたまれなくなったらしい課長が立ち上がり、そそくさと出て行く。

その後ろ姿に『いってらっしゃい』と声をかけて、玄関の方からピシャンと戸口が閉まる音がしてから、お母さんは私の方に身を乗り出した。

「ところで、うちの祐を婿にもらうつもりはない?」

……謹んでお断りしたいと思います。





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