カタブツ上司に迫られまして。
***

「お疲れさん」

居間でぐったりして夕方のニュース番組を見ていたら、帰ってきた課長が私にそう言った。

「……私、今日はお休み頂きましたから。お疲れ様は課長ですから」

「いや? うちの母親は半端ないからな。そっちの方が疲れそうだ」

ネクタイを緩めながら、課長が苦笑する。

確かにお母さんのバイタリティーは凄かった。

お給料日前だし、最低限のモノを……とか、思っていたはずなのに、何だか色々連れまわされて、気がつけばたくさん買って……いや、買わされていた?

まぁ、穴場的な衣料品店を紹介されて、かなり安く揃えることも出来たし助かったけど。

「なかなか良いじゃないか」

Tシャツにサブリナパンツの私に、課長がニヤっと笑う。

……何だかその笑い方、何を考えているのか解らなくて嫌だ。

「で……お袋は?」

「あ。ご近所さんにお呼ばれしたとかで、出掛けられました」

「ふぅん」

言いながら、課長は溜め息をついた。

「その敬語がうぜぇ」

「は?」

びっくりして目を丸くすると、課長は苦笑して首を振った。

「なんでもない」

そのまま居間を出ていく課長の後ろ姿を見送る。

今、軽くうぜぇって言ったよね。間違いなく敬語がうぜぇって言ったよね。

でも、そんな事を言われても困る。
だって課長は課長だし、私は部下だし。そういった関係の大人は敬語が普通じゃない?

着替えてから居間に戻ってきた課長を無言で眺めていたら、今度は吹き出された。

「何だよ。その驚いたような面は。家でくらい、だらっとしたいだろ」

「……解りますけど。想像できないくらい砕けてますよね。課長」

「……まぁな」

そう言った課長の、作ったような苦笑に瞬きした。

なんだろ……何だか、今、いろんなモノを飲み込んだ気がする。
< 13 / 80 >

この作品をシェア

pagetop