カタブツ上司に迫られまして。
「課長……」

「それはさすがに嫌すぎる」

はあ?

頭を抱えた課長を眺めて、あんぐりと口を開けた。

「敬語が出るのは仕方がねぇが、さすがに家でまで課長は……」

そんな事を言われても。

「笹井さん?」

「お袋も笹井さんだ」

え。何……名前を呼べと?

「たーちゃん?」

「ある意味、いい度胸だなお前」

睨まれて、愛想笑いをする。

だって祐さんは無いでしょう?

なんだかそれって身体がムズムズする。いっその事、子供っぽく言ってみた方がしっくりすると言うか……?

「ところで、お袋は田崎さんの家に行くって言ってたか?」

田崎さん? 田崎さんの……
急に話題を変えられると、途端についていけなくなるんだけれど。

「ああ。はい。田崎さんの家に行くっておっしゃってました」

「なら、夕飯は外に行くか」

言いながら立ち上がる課長を見上げた。

「田崎さんの家なら、どうせ引き留められてあっちで夕飯食ってくるよ」

「私が何か作りましょうか?」

言いながら腰を上げると、課長が奇妙な顔を返してきた。

「それはまずい」

「これでも自炊生活でしたから、そこそこ料理出来ます!」

不味いって何よ。失礼じゃない?

美味しいかどうかはともかく、作って食べさせた事もないのに、不味いってどうして決め付け……

「お袋が居ないなら、家に二人きりはまずいだろ」

「あ……」

え? そういう事?

でも、それは男と女が……という事を意識しての事でしょう?

それってつまり?

「あのな。鳴海」

「はい?」

課長は私の傍らにしゃがみ込み、それから顔を覗き込んでくる。

「職場じゃないからな。俺も外に出りゃ普通の男なんだよ」

「は……い」

「それに、思っていたより、お前は興味深いよ」
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