カタブツ上司に迫られまして。
「大家に連絡したか?」

「しました。今は、保険屋さんの査定待ちだそうです」

「事件性とかはあんのか?」

「あ。いえ。油に火が入っちゃったみたいです」

お隣りさんは夕飯にコロッケを揚げていたらしい。冷凍コロッケが爆発して、慌てている所に、油に火が入ってなおさら慌てたらしい。

消火しようとして消火器をかけても燃え広がり……全く間に合わなかったらしい。

驚いて固まってしまった子供たちを逃がしてから、本人も命からがらにげだした。

「どっちにしろ。大怪我した人がいなくて良かったと思います」

「そうか……まぁ、そうだな」

「不動産とも話して、大家さんの他の地区にある物件を紹介されたんですけど……」

課長を見ると、無言で先を促すから眉を困らせる。

「近くに公園があって、とーっても閑静な地域にあるマンションらしいですけど。街灯が少ない上に、ちょっと最寄り駅から遠いみたいで、バスも少ないんだとか」

「やめとけ」

あっさり言われて苦笑した。

まぁ、私もちょっとそれはないなーと思ったんだよね。

「男ならともかく、街灯が少ないって時点でアウトだ。世の中何があるか解ったもんじゃない。残業が全くない訳でもないしな」

それから、ポンポンと頭を頭を叩かれた。

「焦らなくてもいい。うちは構わないから」

「すみません」

申し訳ないしかない。

だけど、慌てて探して変な物件に入りたくないし、燃えちゃった部屋も、かなり時間をかけて決めた。

「一応、情報紙を買ってみましたが、良さそうなのないんですよねー」

「実物を見ないことにはなぁ。まわりの環境もあるし」

そんな相談をしながら、近所にあった中華飯店で炒飯を食べた。

……笹井課長って、どちらかと言うと苦手意識しかなかったけれど、こうして話してみると話しやすい人かもしれない。

そう思いながら、一日が終わろうとしていた。











< 16 / 80 >

この作品をシェア

pagetop