カタブツ上司に迫られまして。
四日目
*****


月曜日。
笹井課長は職場ではいつも厳しい顔をしている。厳しいと言うか、無表情で感情が読めなくて、どこか冷めた顔をしているから冷たいと感じる。

目の前にいると、それがもうひしひしと伝わってきますよ。

「数字が合わなかったと言っていなかったか?」

出張の報告書類を眺めている課長に、微かに微笑む。

「経理の計上漏れでした。一応、調べて合っていたので、報告書には記載しませんでした」

「ミスはミスだろう。記載しないと今後の改善には繋がらない」

ちらりと合わさる視線はやっぱり冷たい。
本当に、仕事中は無表情だよなー。この人。

「過去5年間のファイルを、あれだけひっくり返して、洗いざらい調べましたから、営業所の方で改善策を模索すると判断しました。次回、改善されていなければ報告します」

お陰で営業所長に“女は引っ込んでろ”って怒鳴られたんだけど。
少し執行猶予つけてやれ、そう言っているのも同然の私に、課長が視界の奥で呆れたように見えた。

「あの営業所は、次回は君じゃない方が良いと思うのだが」

「お任せいたします」

それは私の判断じゃないし。仕事は仕事で、もう甘えたことを言える勤続年数でもないし。

とりあえず、それきり何も言わないって事は、執行猶予はついたみたいだよね。
セクハラ営業所長はムカつくけど、それは個人の問題で、次回もそうなら腕を捻り上げる所存だ。

愛想笑いでその場を切り抜けて、デスクに戻ると昼休憩の時間になり、同僚たちに捕まった。

「鳴海さん聞いたわよ。出張から帰ってきたら、家が火事で焼失していたんですって?」

「居合わせた課長の実家に、とりあえずは身を寄せているって聞いたけど、良かったわねー」

「でも、課長の実家って事は、たまに課長が来るわけでしょう? 私は嫌だなー」

無言で聞きながら、にっこりと微笑みを張り付ける。

出張から帰ってきたら、私の部屋は目の前でメラメラ燃えていたし、間違いなく課長の実家に身を寄せてるし、課長はたまにどころか、毎日帰って来るだろうけど。

どこかに大いなる誤解があるみたいだけど、部長もそれで納得したみたいだから誤解させておく、と、課長が言っていた。

皆も、課長が実家に住んでいるとは想像もしていないらしい。

それならそれで、つっこまれずに済むし、それで良いんだろう。たぶん。
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