カタブツ上司に迫られまして。
戻ると、やっぱり心配と好奇心半々の話題の中心に据えられて、午後の業務がなかなか進まない。

今日中にしなければならない仕事と、明日に回しても大丈夫な仕事を頭の中で組み立てていると、課長から呼ばれた。

無表情の課長はやっぱり苦手だけど。
それでも渦中から引き出されて、少しホッとしている自分もいたりする。

「……疲れているようで悪いが、これも頼む」

分厚い書類を眺め、頭の中で今日に振り分けていた分を、ごそっと明日に回した。

「いえ。大丈夫です」

「優秀なのも考えものだな」

はい? ポツリと呟かれた言葉に目を丸くして課長を見ると、すでに課長は次の書類に目を通し始めていた。

「あ、ありがとうございます?」

「誉めてはいない」

あっそうですか。そうでしょうとも。

私だって誉められているような気にはならなかったよ。

ブツブツ言いながらデスクに戻り、書類にざっと目を見ると、最後の方のページに何か固いものが挟まっていた。

見てみると、白紙にセロテープで貼り付けられた鍵。

それから『今日は遅くなりそうだから、先に帰っていろ』の付箋メモ。

……なんだろう。また身体がムズムズしてきた。これって、何だか密会的な……

いや。付き合ってるわけじゃないし。
課長とはそんな関係じゃないし。そもそも課長の実家の鍵だし。

だけど、何だか嬉しいかな。

ちゃんと考えていてもらってるみたいで嬉しい。

くるくるとペンを回しながら書類を見ていたら、同僚の一人に声をかけられた。

「鳴海さんご機嫌いいわね?」

「え? どうして?」

「だって鳴海さんがペンを回してる時って、ご機嫌だもの」

回していたペンを止めた。

別にご機嫌いいわけじゃないもん。

思いながらも、書類に取りかかると、新たに渡された分厚い書類を見て話しかけてくる人はみるみる減った。

でもこれ、あんまり大変でも無いんだけど……

そう考えて、涼しい顔でファイルを眺めている課長を見る。

もしかして……とは、思うけど、これも見越していたのかな?

でも、無表情に優しいのは、とっても解りづらいと思うんですよねー。
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