カタブツ上司に迫られまして。
そうしているうちにも仕事は終わり。

帰り支度を始めていたら、どう見ても仏頂面の課長と、やたらにご機嫌な部長が並んで歩いているのを見つけた。

「月曜から飲み会かしら?」

呟きを聞き付けた一人が振り返る。

「そうじゃないー? 課長って、部長のお気に入りらしいから」

「なんか、その“お気に入り”って、気持ち悪い……」

「そう言われれば」

同僚と鳥肌に身を竦めてから、元気に残業メンバーにお疲れさまを言って帰ってきた。

渡された鍵を開けて入ると真っ暗。

電気のついていない一戸建てのお家って、何だか寂しい感じだな。

お母さんは出掛けているみたいで居ない。

戸口を閉めて、鍵も締め直すと、洗面所で手と顔を洗ってから、借りている部屋に戻った。

四畳半の畳のお部屋。パチリと電気をつけると窓辺のカーテンを閉めて、誰もいないなら、と、キャリーケースからキャミソールとホットパンツ取り出して着替える。

どこもかしこも閉められているからかな……暑くて倒れそう。

いつも涼しいのは、お母さんがいたからか……薄明かりの中で縁側のサッシを開けると、いい風が吹いてきたから、思いきり足を伸ばして座った。

ぼんやりとのんびり。

いい家だよね。

中庭があって、縁側があって。お風呂とトイレが別にあって、居間にキッチンに……部屋はお母さんの部屋と、課長の部屋と、私が使っている客間の他に仏間がある。

玄関は広いし、物置もあるみたいだし。

一戸建ての家っていいなぁ。

「真っ暗で何やってんだ、お前」

急に聞こえた声に、ぎょっとして庭を見ると、そこに課長が立っていた。

「か、か、課長!」

「課長は却下。家では祐と呼べ」

不機嫌そうに言われても、それはちょっと無理がある。

「は、早かったですね。部長とご一緒されていたのでは?」

庭を横切り、靴を脱いで縁側に上がってくる課長に、無表情に見下ろされた。

「たいした話じゃなかったしな。ところで何やってんだ、お前」

「え。涼んでました」

「確かに涼しそうな格好だよな」

そう言われて、自分の今の格好を思い出した。

「目の保養になる」

しないでほしい!
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