カタブツ上司に迫られまして。
「なんだ。その驚いた面」

「え……だって、何て言うか。課長も気を張っているんだと思って……」

「祐だ、祐。まぁ、社会に出てる男なら当たり前だろう」

腕を組み、どこか偉そうに言う課長にポカンとした。

そう……なのかな?
私の知っている社会人男子なんて、とりあえず就職して、とりあえず働いている人も多いけれど。

「俺が課長に昇進した時、まだ早いって声もあったんだ。ぐだぐだ言うより、仕事で見返せば良いだけだしな」

「気苦労耐えませんねぇ」

「……お前に言われたくねえよ」

そうか、気を張っているから、あんな冷たい顔で、口調もあんなに突き放すように怖いのか。

「え? 俺ってそんなに怖いか?」

ポカンとした課長に私もまたポカンとして返す。

あれ? 今の……。

「あの……えーと」

顔を真っ赤にして、なんとか弁解を考えていたら、課長が気がついて吹き出した。

「お前は、プライベートだと独り言を言うのが普通なんだな?」

「き、気を付けますー」

顔を両手で隠して突っ伏したら、大爆笑された。

「いや、まぁ、何となく嫌煙されてるのは気がついていたが。そうか、怖がられていたか」

そんな事を、笑いながら言っている。

怒って……いないのかな?

「それなら、お前。よくおっかない上司の腕の中に飛び込んできたな」

「え……?」

思わず顔を上げると、課長は腕を組んでニヤリと笑う。

「まさか、泣きながら飛び込んでくるなんて、思ってもみなかったが」

「……え。あの」

それは、あれかな。火事になった当日の事かな。

だって、あの時は藁をも掴む勢いがあって。

「まぁ。ちょうどよかったけど」

……はい?

課長は苦笑して、それから下ろしたままの私の髪をするすると指に絡ませる。
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