カタブツ上司に迫られまして。
「いーやーでーすー。離して~」

「お前は子供かっ! スイカを食ったら戻りゃ良いだろ。今ので出ていかなかったら、俺がお袋に怪しまれんだろうが、おとなしく来い!」

「十分怪しまれてましたから、とっても怪しまれてましたから~」

ズルズルと縁側まで連れていかれ、お母さんの笑顔が見えて口を閉める。

「食べ頃だから、食べちゃいましょう」

お母さんはニコニコ微笑みながら、ポンポンと縁側を叩いて首を傾げた。

「……温くなったらおいしくないと思うわよ?」

そう言われても……じっと繋がれたままの課長の手を見る。

課長は私が見ているのを眺めて、無言で離してくれた。

「親戚から毎年送られてくるの」

お母さんの隣に座ると、大きく切った、赤くて甘そうなスイカを渡された。

「あ、ありがとうございます」

とても恥ずかしい。恥ずかしいから、庭を見てスイカをかじった。

正直言って、甘いんだろうけれど、味がよく解らないかも?

お母さんはニコニコしながら溜め息をついているし……。

「それにしても、祐が本当に鳴海さんに手を出すとは思わなかったわぁ」

うわ~ん。このお母さんをどうにかしてください~。

そう思って課長を見ると、課長は課長で頭を抱えていた。

……課長にも、どうにもならないみたいデスネ。

それならここは冷静になってみよう。
うん。冷静になるってとても大切なことだと思うわよ。

「ま……」

首を傾げるお母さんに、力強く頷きを返す。

「まだ未遂です」

「まだ……未遂?」

「はい。まだ何もされていませんから、手を出された訳ではありません」

「そう……“まだ”何もされていないの?」

お母さんはニッコリ微笑んで、課長は困ったように私の肩を掴む。

「お前、それじゃ、俺に何かされるの期待しているように聞こえる」

違うもん──っ!!
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