カタブツ上司に迫られまして。
そうしてそのまま目の前のメモ用紙を指差したから、示されるままに視線を落とした。

【上野とお前。残業】

さらさらと書かれた文字に眉をひそめる。

……お昼前から残業決定されるって、どう言うこと?

課長はペンを持って追記していく。

【不正の可能性 至急】

その文字に、思わずげっそりと肩を落とした。

それから会話中の課長に頷きを返して、上野君の席に向かう。

「上野君と私、残業決定されたわよ」

上野君は愛嬌のある顔を驚きに変えて、目を丸くした。

「はぁ? どう言うこと? 今まだ11時にもなっていないけれど」

「……まぁ。うん」

なんと言っていいものか……迷っていたら、課長が受話器を置いて立ち上がる。

「鳴海、上野。今から営業所に向かうぞ。鳴海。総務に行って営業車かりてこい。後は……」

指示を出している課長に背を向けて、自分のデスクに戻るとパソコンの電源を落とす。

それから4階の総務部に寄って車の鍵を受けとると、その手続きをしている最中に内線で連絡。

地下駐車場に行く事を伝言してから、一階のロッカールームに寄ってバックを持つと地下駐車場に向かったけれど……。

急いだはずなのに、すでに課長と上野君が待っていた。

「早いですね」

「あとの指示は部長に任せた」

そう言って課長が手を出すから、普通に車の鍵を渡しかける。

いや。違う。
課長に運転させて部下が便乗するとか、ありえませんから。

だけれど、上野君に渡そうとしたら取り上げられた。

「上野も鳴海も免許ないだろう」

「え。そうなんだ?」

「恥ずかしながら」

愛嬌たっぷりに照れ笑いをする上野君に和む。

でも、和んでいる場合でもないよね。

「俺もいるからシステム関係なんだろうけれど、課長も出るくらいの監査って、どこのシステムなんですか?」

上野君の言葉に、課長は大きな溜め息をついて首を振る。

「絶対にあって欲しくない部門のだな」

思わず上野君と視線を交わしたけれど、そのまま課長の運転する車に乗って問題の営業所に到着した。
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