カタブツ上司に迫られまして。
とにかくシステムの改竄箇所は見つかったし、不正が行われたであろうファイルを段ボールに移して、残りは物品管理室Aのキャビネットに戻していく。

その作業を上野君と一緒に終えると、とりあえずの打開策を始めることにして、小会議室を出た。

「君ら、今日は営業車で来てんの?」

駐車場まで出てきた時、原本さんが上野君に声をかけ、それから私を見た。

「もう20時だし。俺が送っていこうか?」

ありがたい申し出だけれど、色々と問題もあるかなー。
私は自分の家でもないし……。

「鳴海は俺が送る。上野を頼む」

課長の低い声に、原本さんは何故か爆笑して手のひらをヒラヒラとさせた。

「じゃあ……」

原本さんが言いかけた時、課長のスマホが鳴って、皆で課長を見る。

課長は不思議そうな顔でスマホをタップして話し始めた。

「じゃあね。鳴海ちゃん」

こっそりと挨拶を交わす私たちの後ろで、課長が大きな声をだす。

「え? どこの病院ですか?」

病院?

ぎょっとした私たちの視線が課長に向くと、課長の慌てたような顔が私を見つけて手招きする。

「はい。解りました。はい。すぐに向かいます」

通信を終えると、近づいてきた私の手を取って、課長はしばらく呆然としていた。

「……お袋が事故にあったらしい」

「え。お母さんが? 状態は?」

「解らない。とりあえず、事故現場に居合わせた人から連絡を受けただけで……。俺は直接、病院に向かうから、お前も原本に送ってもらえ」

状態が解らないことで混乱しているのか、課長の視線がどこかぼんやりとしている。

自分で運転して向かうつもりなんだろうか?

それは無謀そうだ。

「営業車を置いていけ。お前も送る」

原本さんが状況をすぐに理解して、車のドアを開けると、課長は首を振る。

「いや。置いていく訳にも……」

「課長。しっかりしてください」
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