カタブツ上司に迫られまして。
十三日目からの数日
*****


火曜日。
白いギプスに足を固定されて、苦笑しているお母さんに挨拶をする。

「こんばんは。調子はいかがですか~?」

「あら。鳴海さん。調子は……調子ねぇ。見ての通り?」

苦笑しているお母さんを眺めつつ、紙袋から着替えやタオルを取り出した。

「ご迷惑だとは思いましたが、勝手にお部屋に入りました」

「いいのよぅ。かえって助かるわ。祐はちゃんとやってる?」

「いつも通りと言えば、いつも通りなんだと思います」

お母さんは左足の骨を骨折した。

フラダンス教室が終わって、お友達と歩いていたお母さんは、横断歩道に突っ込んできた自家用車にはねられたらしい。

跳ねられて、左足の骨折だけで済んだのはとても良いことだとは思うけれど……全治三ヶ月の診断で、入院生活を言い渡されてしまって、少ししょんぼりなお母さん。

「今日も間に合えばお見舞いに来るって聞いてますけれど……間に合うかどうか……」

物流システムの改竄で何かとゴタゴタしているから、微妙なところかなぁ。
今日は部長も課長も席にはいなくて、課長補佐の沢木さんたちが仕事をまわしていたし。

「ちゃんとやっているなら、それでいいのよ。でも鳴海さん?」

「はい?」

怪我をしてもニコニコしているお母さんを見ると、珍しく真剣な顔をしていた。

「あの子、よろしく頼むわね」

え。それは……。

黙り込むと、お母さんは微かに苦笑して、窓の外を眺める。

「……あの子、夫の時も度を越して狼狽えていたから」

夫の……課長のお父さん?

「こういう時、男は駄目ね~。狼狽えてばかりで」

確かに、昨日の課長は取り乱していたかも。
そう考えたら、お母さんはクスリと笑って私を見た。

「随分と頼られてるわよねー。ずっと手を握ってて可愛らしかったわぁ」

「え。や……あれは……」

成り行きというか、なんと言うか。

「だから、よろしくね?」
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