カタブツ上司に迫られまして。
はい。とも、いいえ。とも……言えないでしょう?

なんとも言えない顔をする私に、お母さんは話題を変えてくれた。

結局、お見舞いの時間を過ぎても課長は現れず、帰り道に夕飯の食材を買ってから課長の家に戻る。

暗い家の電気をつけて、着替え終わると雨戸やサッシを開けて風を取り込み、それからキッチンに入り、お米を計って磨ぎ始めた。

こういう時はしっかり食べて、しっかり体力つけないと。
暑さと忙しさと心配で、さすがに課長でも倒れちゃうもんね。

鼻唄混じりに材料を刻んで、勢いよく炒め始めていたら、ガラガラと戸口が開く音がして振り返る。

「おかえりなさい」

「……ただいま」

どこか戸惑ったような声と一緒に、課長がネクタイを緩めながら居間に入ってきた。

「……飯、作ってんの?」

「はい。面倒くさいんで、なんちゃってキーマカレーです。大丈夫ですよね?」

課長が呆れたように眉を上げ、それから頭をかいた。

「いや、それ……相当面倒くさいと思うんだが」

「材料さえ刻んじゃえば簡単ですよ」

「……あまり無理しなくていいぞ? お袋のところにも行ったんだろ。お前」

困ったような課長に目を細め、ビシッと指差す。

「今までだって、私は朝御飯も夕飯も一人で作って一人で食べてました。いいから、早く着替えてきて下さい」

はいはい、と気のない返事をしながら、課長は自分の部屋に戻っていった。

まぁ、お母さん程に凝ったものは作れないけれど、簡単なものなら作れるんだからね。

ブツブツ言いながら配膳していたら、Tシャツとジャージ姿の課長が、戸口にもたれるようにして黙って立っていた。

「どうかしましたか?」

無表情の課長は、ニヤリと笑った課長よりも、何を考えているか解らない。

「課長?」

「たーちゃんじゃないのか?」

……気に入ったんだろうか?
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