カタブツ上司に迫られまして。
「現実だ馬鹿。早く帰ってこい」

不機嫌そうな課長に溜め息をつく。

……これはやっぱり現実だ。だって課長がとても偉そう。

「お前、現実逃避すると、心の声が漏れる人間なんだな」

「え?」

苦笑するような課長の表情を見てキョロキョロする。
お母さんは、とても楽しそうに笑っていた。

「祐を可愛らしいと言う女性は少ないわねー。そんなに中性的な顔はしていないけれど」

「あ。いえ。そうではなく。あの……?」

タスク? タスクって誰だ?
考えて、課長のフルネームだと気がついた。

笹井 祐。35歳……だったかな。
企画管理部監査室の課長で、職務態度は杓子定規。真面目すぎて面白くないと言う人もいるけれど、仕事なんだからそれで良いと思う。
笑った顔を見たことは無い。
元々が良いから、密かにモテるらしい……けど、反発者もたくさんいる。
告ったら速攻で振られると言う噂あり。
そこがクールで良いと、ますます燃える人もいる。

私はどちらかと言うと、今のフランクな課長の方が好みだけど。

「ふふふ。鳴海さん、だったかしら」

お母さんが優しく微笑むから、つられて微笑み返す。

「はい」

「貴女の頭の中で、祐が今、分析されていそうね」

「……え。また心の声が漏れてましたか?」

顔を赤らめると、お母さんはふるふると頭を振った。

「祐もそんな感じなのよ。黙り込んで、四方八方いろんな事を考え始めるの」

いや……課長と同類に思われても、かなりの勢いで戸惑いますが。
と~っても嫌ですが。

「私はそんなに無愛想じゃありません」

「俺が愛想振り撒いていたら気持ち悪いだろうが」

低い声に、慌てて課長を見た。何だかさっきからポロポロと本音が……
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