カタブツ上司に迫られまして。
「たーちゃんて、少し古くさいですよね~?」

「お前が言い始めたんだろうが」

「まぁ、そうなんですけど。祐さんて呼ぶのは、少し照れます」

唇を尖らせてブツブツ言いながらコップにお水を入れて、それからサラダを並べ……しゃがみ込んで俯いている課長に気がつく。

「あっさり照れますって言われる方が、照れるのはどうしてだ?」

「照れられるとますます照れちゃいますから!」

噛みつきながら顔を赤らめた。

全く、課長は本当にからかうのが好きなんだな!

「食べましょう。冷めると油っぽくなっちゃいますから」

とりあえず座って、お互いにいただきますと言ってから夕飯を食べ始めた。

時折、思い出したようになる風鈴と、微かに聞こえる道路の車のタイヤの音。

それからスプーンがお皿に当たる音を聞きながら、切実に思った。

……テレビつけておけばよかった!

沈黙だよ沈黙。

なんだろう、とても静かすぎて気詰まりだよ!

何か話そうか。でも、何を話そうかな?

「お母さん。元気そうにされてましたよ?」

「ああ。うん。今日もありがとう。お袋の着替えとか持っていってくれたんだろう?」

「着替えとタオルと、洗面用具とか……ですかね」

ニコニコしながら言うと、課長は困ったように顔を上げた。

「鳴海……大丈夫か?」

「え? はい?」

何がでしょう? 課長は本当に困ったような表情だから、瞬きをする。

「いや。しばらく二人きりが続くんだが」

うん。まぁ……それは忘れようと思っていたんだけどなー。

でも、忘れたフリをしたって、現実は目の前にあるわけだから、どうしようか……って、感じなんだけどさ。
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