カタブツ上司に迫られまして。
「押し倒しても良いのか?」

「そんな事に答えるはずがないでしょう!」

顔を真っ赤にしたら、爆笑された。

「お前はそういうとこは、女って言うよりは、女の子だなぁ」

笑いながら食器を持って、課長はキッチンに向かった。

「あ……」

「飯作らなかった奴が洗いもん担当な。少しくらい決めごとがあった方がいいだろ」

課長を追ってキッチンに入ると苦笑している。

「うちは男性をキッチンに入れない主義なんですよねー」

だから、何だか慣れないかも。

「鳴海の実家?」

課長が一度お皿を水で流し、スポンジに洗剤をかけながら振り返った。

「うちの男どもは、つまみ食いが好きなんですよねぇ」

「俺も好きだな」

課長は笑いながらテキパキと食器を洗い始め、水切りかごに乗せていく。
それを乾拭きして食器棚に戻すと、また笑われた。

「鳴海の母親は、しっかりした人らしいな」

「それは間違いないですね」

うちの母さんは、一見物静かそうに見えて、確実に影の支配者だよね。

それは、課長のお母さんにも言えそうだけれど……。

「明日は……早く帰れっかなぁ」

ブツブツ言いながら課長が水切りかごも洗い、それから立て掛けた。

「どうですか? そちらは」

「まぁ、原本がプログラムを変更できるか、データを見ながら模索中だな。ぱっと見は問題なさそうに見えるのが厄介だ」

「ルファーブル側は、何か……?」

「営業担当と、あっちの内部監査員が真っ青な顔で飛んできた」

そうなんだ。まぁ、そうなるか。

「あっちもあっちで内部監査員が、動き出した……が。鳴海?」

「はい?」

「仕事の話はしたくねぇな」

言うと思いました。はい。

「だって……気になるんですもん」

「お前も会議に加わるか? 大して面白くもないが」

「あ。それは遠慮します」

上野君は参加しているらしいけれど、進んで会議に参加したいとは思わないな。

大変だもん。

「ごめんな……」

ポツリと呟いた課長に首を傾げる。

「今、まだ少し落ち着かねえ。だから、お前も落ち着かねえかもしれないが……」

「バカですねー。こういう時こそ助け合いでしょ。大丈夫です。私は頼られるのには慣れてますから」

微笑むと、溜め息をつかれた。

「どっちかって言うと、逆の立場が一番いいんだがなぁ」

そう言って笑いあった。






< 52 / 80 >

この作品をシェア

pagetop