カタブツ上司に迫られまして。
「課長~!」

「ただい……まて、おま……っ!」

課長が、両手を広げたからそこに飛び込んで、ぎゅうっと抱きつく。

「状況が読めねえよ! どうした、なにがあった?」

「雷……!」

またゴロゴロ聞こえて、必死にしがみついたら、返ってきた言葉はあっさりしたものだった。

「なんだ。雷が苦手なのか」

「怖い~!」

「こんな平屋に落ちねえから安心しろよ。とりあえず落ち着け」

「無理無理無理無理~!」

「……仕方ねえな」

ん? と、思った時には抱き上げられていて……。

あれ? と、思った時には唇が塞がれていた。

瞬きして考える。

どうして課長と私はキスしているのでしょうか。

そんな冷静な驚きは、力一杯抱きしめられて吹き飛んだ。

「んぅ……っ」

微かに開いた唇から漏れた吐息と、微かなコーヒーの香りが交わる。

それから、ゆっくりと離れて……。

鼻先すれすれに課長の顔。

何だかとっても楽しそうで、でも、男らしい真面目な表情が見える。

課長は……眼がとても綺麗だ。
ああ、そうか……だから綺麗に見えるんだ。

そう思っていたら、ニヤリと笑われて、微かに触れるだけのキスをされて目を瞑る。

唇を唇で食まれたり、角度を変えて何度もキスをしてくるけれど、戯れるようなキスが何だか物足りない。

キュッと課長のシャツを掴んだら。少しだけ漏れた吐息。

途端にキスが深まった。

最初はゆっくりと、それから少しずつ絡まりあって……優しいけれど、優しくない。
そして、どこか心地よくて、気持ちいい。

課長って、こんな風にキスをするんだ。

「……これ以上は、俺がやばい」

離れた唇。荒くなったお互いの吐息。瞬きを返したら、課長が苦笑している。

「あ、えっと……」

駄目なの?

「流されるのは勘弁。お前だって嫌だろうが」

こつんと額が合わさり、唇をとがらせる。

「……駄目?」

「玄関先じゃ、なお悪い」

そ、それもそうか。

顔を赤くして離れたら、あっさりと課長は手放してくれた。

……でもね?
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