カタブツ上司に迫られまして。
「押し倒してもいいのか聞いてきてたくせに。女に誘われといて、断るなんて酷いと思う」

「俺を好きだって言ったら、受けて立つ」

何故か偉そうに言われて顔をしかめる。

「課長って、案外ロマンチストなんですか」

「認めねぇよ」

いや。認めようよ。絶対にそうだから。

「……ところで、俺はそろそろ家に入ってシャワー浴びたい。さすがに濡れた」

「……あ」

よく見たら、髪は濡れて乱れているし、Yシャツも濡れている。

「ご、ごめんなさい。タオルをもってくる!」

「いや。いいよ。落ち着いたみたいだな?」

苦笑している課長に瞬きを返す。

何が?

「どーでもいいけどお前、飛び込んでくるのは勘弁しろよ。これで何度目だと思ってんだ」

「え、えーと。ごめんなさい」

課長は靴を脱ぎ、ついでに落ちた鞄を拾ってから上がってくる。

……鞄を投げ捨てて受け止めてくれたらしい。

「お風呂、沸かしますか?」

歩き始めた課長について歩きながら、首を傾げる。

「いや。シャワーでいいよ」

「じゃ、先に浴びてきてください、風邪引いちゃう」

「んー……まぁ、今はバタバタだから風邪引いてる暇もねぇしな」

「ご飯、冷たいもの多いんですよ。暖かいのにすればよかった……」

言いかけたら、急に課長が止まって、その背中に激突した。

「鳴海……」

「は、はい?」

「お前やっぱり、すぐに笹井由貴になるか?」

振り返って、真面目な表情の課長。

いや。だから……それは急なんだってば。

「いくら前向きですって言っても、さすがに付き合ってもない人と、そういうのは考えられませんよ」

「じゃあ付き合おう」

じゃあって何!? じゃあって!!
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