カタブツ上司に迫られまして。
確かにね。キスされて、キスを返しといて、付き合おうって言われて、グダクダ言うのは天の邪鬼だと思うけれどね?

だって、課長はいろいろとすっ飛ばし過ぎだと思うんだ。

好きだって、聞いてないもん。

そんなことを一言も言われてないもん。

顔と身体が好みだって話を、お母さんがしていただけで、課長からはなんにも……。

ガラッと襖が開いて、どこか焦ったような、困ったような課長が見えた。

「悪い。俺は鳴海が好きだぞ?」

「……はい?」

なんで、突然そんなことを言うの?

「俺がすっ飛ばしてるってところから聞こえてきた」

そ、そそ、そんなこと……。

「 言わなくていいですから!」

「言うだろ。順番がおかしくて悪かったな」

「悪くは無いんです。悪くは……」

言われたかったのも本当なんだけど。

でも改めて言われると、やっぱり困った。

たぶん、今は嬉しいような困ったような顔をしているはず。

そんな私を見て、課長はニヤリと口角を上げた。

「なんなら、毎日言ってやろうか?」

そんなことを言われて、よろしくお願い致します……とは言えない。

「そういう言葉は、毎日言っていたらありがたみが無くなります!」

「なら、たまに“愛してる”とか、呟いてやろうか?」

「……え」

あ、愛して……。

「いやぁああー! 課長って、そんな台詞もしれっと言っちゃう系ですか!?」

「どんな系かはしらねえよ」

「とりあえず、さっさとシャワー浴びて着替えてください!」

突き飛ばして襖を閉めたら、中から爆笑している笑い声が聞こえた。

あれは間違いなくからかったよね。

ブツブツ言いながらキッチンに向かって、冷しゃぶサラダとナスの煮浸しを取り出す。

……お味噌汁を作らなかったけど、作ろうか。

作って、テーブルに置いていたら、課長がタオルで頭を拭きつつ居間に入ってきた。

ほかほかしてそうだから、ちゃんとシャワーは浴びたんだろう。
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