カタブツ上司に迫られまして。
十六日目
*****



金曜日。
カチャカチャと静かなフロアに響くキーボードを打つ音。
たまに内線電話を受けて、話す同僚たちの声。

それから、コツコツと課長がデスクをペンで叩く音。

それが何故か、国民的お笑い番組の主題歌だと気づいた人は、課長を黙って凝視していた。

うん。まぁ……あんたいくつだよ。と言う突っ込みは誰もできないと思うのね。

でも、課長って毎週欠かさず見ているんだよね。
お母さんの影響かな。ご年配の人はお好きだから……。

何だかご機嫌なのかな? ご機嫌そうだけど、無表情だから……誰もなにも言えないよねー。

うんうん。私も無言で無表情に、そんなリズム刻んでいる男には話しかけたくないわー。

「課長……?」

恐る恐る上野君が書類を持って行くと、課長は顔を上げた。

よし。課長のリズムペンは止まった。
これで落ち着いて仕事に集中出来る。

そうしているうちにお昼休みになって、同僚たちと一緒に席を立ちかけて……。

「鳴海……少しいいか?」

どこか困ったような上野君と、やっぱり無表情の課長。

えー……。お腹空いたよ、私も。

それでも得意の微笑みを浮かべて近づくと、書類の確認作業を頼まれた。
軽く打ち合わせをして一度席に戻ると、袖机に書類をしまって鍵を掛ける。

「昼休み明けで良いから頼む。ついでだ。昼飯食いに行こう」

立ち上がる課長と、目を丸くした上野君。

「え。課長のおごりですか?」

え。私も行かなくちゃいけませんか?

無言になった私を、課長は見下ろした。

「鳴海もだ」

いや。今は私も呟かなかったよね?

呟いていない自信があるのに、何故か答えられた。

「……鳴海。すごく嫌そうな顔しているよ?」

上野君に教えられて口許を押さえる。

顔までは気にしていなかったわよ!
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