カタブツ上司に迫られまして。
***

そんな訳で誘われるまま、原本さんと近所の居酒屋に来ていた。

「鳴海ちゃん。何を食べる~?」

古くて煤けていて、油っぽく見える木造の店内と、法被を着ながら賑やかに店内を歩き回る店員さん。

遠くからビールを頼むサラリーマンと、大きな声で答えている、ねじり鉢巻のオジサン。

課長達の年代は、こういうお店がすきなのかな?

「ここはモツ煮込みがお薦め。鳴海ちゃん、ビール飲む? ビール」

まぁ、間違いなく、女子を誘うお店ではないよね。

「発泡酒で良いです」

「ありゃ、節約魔?」

「何かと物入りなんですよ。私は」

「大変だねー。まさか火事になるなんて、人生何が起こるかわからないね」

どこかオジサン臭い事を言いながら、近寄ってきた店員さんを捕まえて原本さんは注文を済ませる。

「どう? 笹井のお袋さんの様子は?」

不自然さの欠片もなく、何だか当然、私がお見舞いに行っている……と、ばれているのか、そんな事を聞かれて溜め息をついた。

「見た目は元気そうにされてますけれど、活動的な方ですから、つまらなさそうな感じですね」

「入院なんてそんなものかもねー」

「まぁ……」

言いかけたら、目の前にビールジョッキが現れた。

「お待ちどうさまでーす!」

元気一杯に次々と置いていかれる料理にあたふたしていたら、原本さんに笑われる。

笑っていないで手伝って欲しい気がするけれど、原本さんも一応上司だ。

全くそんな気がしないのは無視して、店員さんが置いていったお皿を完璧に配置し直して微笑む。

「鳴海ちゃんて、A型だろ」

「血液型占いは信じません」

真面目だとか言われそうなので拒否します。

「とりあえず乾杯しようか」

「いただきます」

ぐいっとビールを飲んだら、原本さんに目を丸くされた。
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