カタブツ上司に迫られまして。
「あれー。嫌なことでもあった?」

「ないです」

パチンと割り箸を割って、何となく目の前の料理に手をつける。

嫌なことなんて無いもん。

まぁ……状況としては嫌なことかもしれないけど。

無理矢理って訳でもないけど、まだまともに二度しか顔合わせたこともない人と、どうしてご飯食べなきゃいけないんだろう。

ワケが解らない。

でも、ついて来ちゃったものは仕方がないし。

なら、食べるもんね。

「まあ。いいけど。あ……」

原本さんがスマホを取りだし、画面をタップして話し始める。

それを見ながらビールを煽った。

嫌なこと……か。

イライラならしているかもしれないけれど。

「お姉さん。中ジョッキをおかわり」

通りかかった店員さんに、空のジョッキを渡して、話し中の原本さんを振り向いた。

「課長ですか?」

「ああ。うん……。そう……」

どこか乾いた笑みを浮かべつつ、話ながら原本さんが困っている。

「えーと。鳴海ちゃんて、もしかして酒弱い?」

原本さんから無言でスマホを奪い、耳に当てた。

「課長?」

『まぁ、課長だな』

聞こえてきた呆れた声に、目を細めた。

「早く来ないと、全部食べちゃいますよ」

『いや。食っとけよ。と言うか、食え。お前また空っ腹に飲んだろ』

「とりあえずビールは、社会人の嗜みじゃないですか」

『……15分で着くと伝えろ』

「誰にです?」

『目の前の馬鹿にだ』

言うなり、通話が切れた。

「15分で着くそうです」

「……へぇ。心配されてるねー」

「何がですか」

原本さんはへらっと笑って、それから目の前のモツ煮込みを食べた。

「鳴海ちゃんて笹原が好きなの?」

ズバリと言われて、瞬きを返す。

好きだと言った当の本人ですら、まだ曖昧にしていることを、会って二度目で聞いてくる……この人はどういう人だろう。

また運ばれてきたビールをぐびぐび飲みながら、原本さんを見つめた。
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