カタブツ上司に迫られまして。
ドキドキしながら、大人しくテーブルを挟んで課長の目の前に座る。

座った途端、課長が困ったような顔をした。

「別に叱らないから落ち着けよ」

「へ……?」

「お互いにいい年なんだから、酒くらい飲むのも当たり前だろう。それは俺が叱ることじゃないが……」

ないが……?

「ほとんど知らねぇ男と飲むのは叱るべき事か?」

あの。聞かれても困るんだけれど。

眉を八の字に下げると、課長も困ったように笑った。

「お前は酒に弱いんだから、そこは気にした方がいいな」

「弱くないですよ。いつもちゃんと飲み会でも自力で帰れてますもん」

「だから、それは新崎が気を使ってたからだって言っただろうが。お前は丸っきり気がついて無かったんだな」

知らないもん。加代子が何かしていたなんて。

「お前が弱いのなんて、古株のうちの部署の人間なら皆知ってるぞ?」

「……え。なんでですか?」

「お前がうちに転属された時、歓迎会やったじゃねぇか」

え。うん。初めての監査室の飲み会で、課長もいて、いつになく酔っぱらった記憶もあるけれど。

「あん時は暴れるわ、泣くわ、人から引っ付いて離れないわ、大変だったんだぞ?」

そんな……

「し、知らないです! 確かに酔った記憶はありますけど、暴れて泣いて引っ付い……たの?」

それはそれは白い目で見返された。

「3年も前の話だが、俺は詳細に覚えてるぞ? まずは飲みすぎだと言う新崎を引き倒して、彼氏と別れた事を泣きながら言い初めて、それから俺に抱きついて眠り始めたんだ」

麦茶の入ったグラスをガコンとテーブルに置いて、あんぐりと口を開いた。

「き、記憶にございません」

「そのようだな。じゃ、俺が家まで送ったことも覚えてねぇな?」

「覚えてないです、今の今まで加代子が送ってくれたんだと思ってました」

だいたいなんで言わないのー?

加代子も何も言わなかったじゃないか。

「言わねぇだろ。あいつも相当酔ってたし」

「独り言を呟いたかもしれませんが、それに返事しないでください!」

キッと睨むと、課長は爆笑した。
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