カタブツ上司に迫られまして。
一日目
*****



「おはようございます。課長。起きてください」

「……お前には、女のたしなみと言うものはないのか?」

暗い部屋のカーテンを開け、布団に寝ている課長に声をかけて揺さぶると、睨まれながらそう言われた。

だって、貴方のお母さんに頼まれたんですよ。
忙しそうに朝ごはん作ってくれている貴方のお母さんに言われたら、とても断りにくかった……

それでも襖を開けるまで、実は10分くらい考えましたよ。

考えたけれど、開けましたよ。

「一人で起きれば良いんです。そうすれば、起こされずに済みま……」

言いかけたら、急に世界が反転した。

捕まれた腕と、不機嫌そうな課長の顔と、それから天井からぶら下がる丸い蛍光灯と……さすが和風な家だよね。

あ。課長に寝癖がある。

「一瞬で現実逃避すんな。襲われても文句は言えないぞ」

間近の顔に睨まれて、現実に帰ってきた。
実際には、少し寝乱れたままの課長に布団の上に引き倒され、そして上から覗き込まれている。

たしなめるつもりにしても、顔が……ち、近いと思うんだ?

「お、お母様がいらっしゃるのに?」

「それはこの際、関係ないな。ここは一番離れだし」

確かに離れだけど、別棟という訳でもないでしょう!

「私は課長を信じてます」

冷静な声に万歳よ、私!

「何をだよ」

「部下に手を出して、ゴタゴタしたい性格しているとは思ってません!」

課長がニヤリと笑った。

笑った顔が、妖しく輝いているように感じて心臓がバクバクし始める。

ど、どうしましょう?
蹴る? 両手は捕まっているから叩けない。頭突きならできそう?
でも、やっていいの? やっちゃっても問題ない?

そんな私の思惑の中で、課長はますます妖しい笑みを見せる。

「そんなもん、バレなきゃいいだけだろうが」

いや。バレなきゃという問題ではなくて、まずは仕事やりにくくなるでしょうが。

気にしないの?

しばらくそうしていたら、課長が溜め息をついて手を離してくれた。
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