瞬きの星
果たして、これは誘拐なのだろうか。

目を窓から男に移す。
この男は誘拐犯か、殺人犯か。(05)それともただのホームレスか。
「何だ。」
「あ、いや。」
そんな事を直接覗う事など出来ず。しかし取り繕って答える。
「どこに向かっているのですか。」
「俺は知らん。」
男は表情を変えずに、ただ前だけを見ていて。
その言い方は、精神異常者に一票を投じた。

男の顔は動かない。
やってきては過ぎる光に照らされる、その深い皺の刻まれた表情がやけに機械的に。或いは、鼓動しているかのように見え。今に成って少し、怯えに似た感情に気がついた。

しかしもう後戻りは出来ない。僕は車に乗り、その車は走り出した。
もう大分走り続けてはいる。が。それは初めて持った会話であった。

窓の外で、やはり光はどこまでも流れ続けていた。
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