瞬きの星
「うわ、牛!つかマジ牛じゃん!!」
柵を挟んですぐそこの場所に、のっそりと動く生き物が長い舌を伸ばしていた。その光景に喜ぶ自分が、今の自分の状況にはふさわしくないという事を思い出させる。

ついぞ忘れてしまいがちだ。が、僕は誘拐された。かもしれないのであった。

僕はその犯人らしき人物に向かって、素朴な疑問を投げかけてみた。
「こんなところに着て、何をするのですか。」
「そうだな。」
男はポケットに手を突っ込んだまま、此方へ振り返るわけでもなく言った。
「とりあえず、ソフトクリームでも買って来い。」

そしてつかつかと、車へ戻ってしまうのである。
< 29 / 74 >

この作品をシェア

pagetop