瞬きの星
自分なんて物はない。

自分なんて物はなかった。それは今だけじゃない。いつからか僕は僕を失って。いつかはそれを持っていたかどうかだって怪しい。それでも、それを持っている事が当たり前で、それを持っていたいと思う事が普通だと、いつのまにか教え込まれている。

「雨、降ってる。」

いろんな事を思い出していた。
雨が降り出していた事、さっきまで苦しかった事。あの苦しみは、自分の意思のない僕に唯一自分の存在を教えていてくれた事も。

僕には確かに体があった。
そして、だからこそつらい。その体の中に、収められるだけの僕とは。
僕には確かな身体があるのに、その確実さとは相反して。僕というもの、その内へ注がれるものは、何ともなく不安だ。
僕は、生きているのに。生きているはずなのに。
それが怖かった。
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