瞬きの星

03

「そんなに気になるの。」
六時限の長い授業を終えて、
朝よりも重くなったペダルをこいで。
背中から彼女の声が消えた。

「朝の誘拐犯のおじさんの事、考えているのでしょう。」
含み笑うかのように言う。
「まあな。でも誘拐犯ではないだろう。」

「なんで?君もただのおじさんだったって事にしてしまうの。それじゃあ、つまらないじゃん。
「ほら、確かあったよね。
前に団地で小さな子が突然死んじゃって噂になった。十年くらい前にも行方不明者が出ていて、その再来だとか。」

「その話は、いいや。」

ブレーキのこすれる高い音に彼女の声が混じる。
「そっか。ごめんね。」
籠の中バッグを受け取りながら、笑って言った。
「けれど。あんまりぼうっとしていると。君こそ、誘拐されてしまうのではなくて。」
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