くれむつの恋
プロローグ
太陽が沈みながら、淡いオレンジの光を街に刺した。そんな街を見下ろせる急カーブの坂道を、
太陽を背に背負いながら、彼女はてくてくと歩いていた。
足取りは軽く、手には猫じゃらしを持って「ふんふん」と鼻歌を歌っている。
軽いウェイブのかかった肩までの髪を風に揺らし、少し乱れたブレザーの襟を、
ちょんと控えめに引っ張って直した。
高校の帰り道であるこの坂道が、彼女は好きだった。
それにしても、何かあった訳でもないのに、この日の彼女はやけに上機嫌だ。
ふと、街に目を留めた。と、同時に坂の曲がり角を終え目線を前方に戻す。
瞬間彼女は、息を呑んだ。
坂の上で、街を見下ろしている一人の青年に目を奪われる。
年は彼女と同じ頃だろうか。どこかの高校のブレザーを着ている。
彼は、黒く短い綺麗な髪を風になびかせて、ぼうっと遠くを見つめていた。
その姿はどこか儚げで、夕陽の光が瞳に映りきらきら輝いていた。
――ああ、まるで、泣いているみたいだ。