深愛なる君へ、この愛を捧げます。
ベッドに近付くと理人のお腹、腕、首と徐々に理人が見えてきた。
酸素マスクをつけていて、相変わらず痛々しいくらいに腕に点滴が刺さっているけど、一つだけ違うことがあった。
それは、4年近くも開かなかった理人の目が開いていること。
眉をハの字にして、泣き崩れるお義父さんとお義母さんを見つめている。
手の震えが止まらない。
目の前に広がる光景が、未だに信じられない。
「…ま、まさ…と…?」
やっとの思いで出た言葉は、彼の名前だった。
小声でも私の声に気づいた理人は、顔をゆっくりと私の方に向ける。
そして私を見つめる目が細められた。
理人は点滴の刺さっていない方の腕を私に向けてゆっくりと伸ばしてきた。
「…芽々(めめ)……」
あぁ、この声。
私の名前を呼ぶ、少し低めの心地よく耳に響く声。
この声に名前を呼ばれる日が来るなんて、夢を見ているよう。
それに久し振りに名前を呼ばれた気がする。
私は目から溢れる涙をそのままに、理人の手の届く距離まで近付き、床に膝をつけた。
すると理人の手が優しく私の頬に触れた。
「…ごめん、ね…ずっと…待たせ、ちゃって…」
まだ意識が戻ったばかりで、うまく言葉が出せない理人だけど、頑張って小さな声でも途切れ途切れでも私に話しかけてくれている。
私は自分の頬に触れる理人の手の上に重ねるようにして、自分の手を乗せた。
「…ほんとよ、…どれだけ待ったと…思ってるの…っ
日海なんて…ぐす、もう…4歳になるんだから…私達のこと…、待たせ過ぎよ…っ」
頬から伝わる理人の温もりが夢じゃないと証明してくれているようで、涙が更に溢れてきた。
もっと理人の温もりを感じたくて、理人が生きていることを確かめたくて理人の額に額をコツンと合わせた。
「…おかえり…っ、おかえり、理人…」
私が微笑むと理人も釣られるように微笑み目を閉じて
「…ありがとう…た、だいま…」
と囁き、目から一筋の涙を流した。