ブルー時々、蒼。
――言うが早いか。
「本気だよ。物心ついたときからずっと」蒼ちゃんはわたしの手首を勢いよく掴んでいた。
「おばちゃん」
玄関のドアを開けるやいなや、低い声を張り上げる。パタパタとスリッパの足音と一緒に、エプロン姿のお母さんが現れた。
「蒼ちゃん、どうしたの?」
「悪ぃけどそのハゲとの縁談、断ってやってくんねぇかな」
掴んだわたしの手首を、蒼ちゃんは自分の背中にぴったり付ける。
とたんに眉を釣り上げたお母さんには、見えてない。
「純ったら、蒼ちゃんを味方に付けたの!?」
「俺がそうして欲しいんだ」
夕方の、生温い空気が、ぴんと張り詰めたように感じた。
わたしには、口を挟む余地などない。
「ええっ!?」
「お願いします」
目を真ん丸にして驚くお母さんには構わずに、蒼ちゃんは深々と頭を下げる。
そして、掴んだわたしの手首を放し、一本一本丁寧に指を絡めて繋ぎ直した。
「純っ、一体どういうことなの!?」
ヒステリックなお母さんの声が、背中を追って来るけれど。大丈夫、あなたさえ、そばにいてくれたら。