カシスオレンジのその先へ
誰がそんなこと出会ってすぐに同じように自分よりも大切にしたいと思うほど好きになった相手に言えるだろう

少なくとも僕にはできないのだ
泣き顔よりも笑顔をみて少しでも幸せと感じたいような臆病者には

僕はなんとか音々ちゃんを笑顔にしようと必死に話を繰り返し笑顔を作り続けていた
彼女も同じように笑顔を「作って」いるようだ
気付かないふりをしてとにかくたくさん話をした

笑顔にも耐えることができなくなり黙りこくってしまった
僕たちにはよく沈黙の時間ができてしまうらしい
彼女に合わせて頼んでいた普段は飲まないような甘ったるいカシスオレンジを飲む

話しなきゃ
そう思い口に出した言葉は酔っていると信じたいほどの言葉だった

「ねぇ僕の家くる? 一夜の過ち?」

なんて言葉を出していた
どうやら僕は僕の知らない自分がいるようだ

彼女も酔っているのか

「何言ってんですか
 慶さん彼女いるじゃないですかぁ?
 ワンナイトラブって言ってくださいよ
 一夜の過ちって」

そうやって笑いながら返してきたかと思えば
すっと真面目に

「わかっているでしょう?
 私には ね?」

なんて返してくるのだから
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