俺様紳士の恋愛レッスン
歪む視界に映る表情は、先ほどから1ミリも変わらない。

『失った財産は嘆いたって戻らない』、そう言われたばかりなのに、醜く嘆く私に心底呆れているのだろう。


耐え切れず視線を外すと、重力に負けた涙が1つ落ちた。



「バーカ」



言葉とは裏腹に、優しく私の頭を包んだ手のひら。

驚いて顔を上げようとすると、ワシャワシャッと髪を掻き乱される。



「ちょ、わ!」

「バーカバーカ」

「もっ、離してっ!」



十夜の手を引っぺがし、乱れに乱れた髪を手ぐしで抑え、キッと睨みつけた。



「なにすんのー! ボサボサじゃん!」

「エン、今度の土曜空けとけ」

「は!?」



欠片も脈絡のない発言に目を見開くと、十夜は口角の片端を上げ、静かに笑った。



「正しい財産の使い方を教えてやる」




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