俺様紳士の恋愛レッスン
いや、違う。

私は逃げたのだ。


どうして?と自問自答を繰り返して、脳裏に呼び起こされる記憶。



キスなんて、出来るはずがない。

私の中にはまだ、強引で俺様なキスと、バカみたいに優しいキスの記憶が残っている。


タカちゃんと向き合うと決めたのに、いざとなったら受け入れられない。

最低な自分が心底嫌になるのに、どうしても気持ちが追いつかない。

寝て目が覚めたら、全ての記憶がリセットされてしまえばいいのにとさえ思う。



失恋の痛みは、本当に時間が解決してくれるものなのだろうか。


もう教えてくれる人はいないというのに、心の中で「教えてよ」と何度も呟く。

価値のない後悔ばかりが頭を巡って、声もなく、音もなく、ただ静かに枕を濡らした。




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