俺様紳士の恋愛レッスン
“エン”

聞き取るのがやっとの囁きに相反して、心臓はドクンと大きく音を立てる。



「ち、違う。エンじゃないもん! 私の名前は――」

「まどか」



その瞬間、息が詰まるような心拍の波に襲われた。



「まどかまどかまどかまどかッ」

「ちょッ……」

「これで満足かよ!」



十夜は投げやりに声を荒らげて、強く強く、私を抱き寄せる。

絶対に顔は見せない、とでも言うかのように。



「十夜、離して」

「却下」

「離して!」

「ぜってー離さねぇ」

「ちゃんと顔見て言ってよ!」

「言わねーよ!」



苦しい程にあてがわれる体温と、額に感じる鼓動の震え。

表情を見なくても伝わってくる、十夜の感情。

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