俺様紳士の恋愛レッスン
私たちは付き合い始めてから程なくして、同棲を始めた。

というのも、タカちゃんが居なくなった2DKの家は一人で住むには寂しく、もう少し手頃な家に引っ越そうかと考えていることを、十夜に話したところ。



「今すぐ荷物まとめてうちに来い」



……というわけだ。



「では片柳君、私たちはこれから他店調査に行ってくるので、失礼するよ」

「はい。お気をつけて」



片手を挙げてフランクな別れを告げた上司に、丁寧な会釈を返す十夜。

私も不自然のないよう形だけの会釈をし、十夜の横をすり抜けようとしたその瞬間、長い指が私の後ろ髪を掬(すく)う。



「またな」



耳元に甘い囁きを落とし、意地の悪い笑顔を浮かべ、十夜は颯爽と去って行った。



「――バカ十夜!」と心の叫びを細い背中にぶつけ、踵を返す。


この真っ赤な顔を、上司にどう説明すればいいのか。

全く、いつまで経っても彼の二重人格っぷりには敵わない。

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