俺様紳士の恋愛レッスン
「エン、お前はもっと世の中の常識を知ったほうがいい」



言葉の意図が読めず、「え?」と聞き返すものの、十夜はそれ以上何も言わず、街行く人の流れを見つめていた。

二人の間を抜けた風には、清涼な香りが微かに混じる。



「じゃあな」

「あ、うん、気を付けてね。今日は本当にありがとう。……楽しかった」



胸が、なんとなく苦しい。

アルコールが悪さをしているのか、それとも、彼との別れが名残惜しいのか。


なんて、バカみたいだ。

プライベートといえど、私達の関係は、ただのコンサルタントとクライアントだ。



「篠宮サン」



向けられたその声は、明らかなビジネス用で。



「来週お会いする時は、どうぞ片柳とお呼びください」



徐(おもむろ)に描かれたのは、緩やかで美しいニセモノの笑顔。

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