俺様紳士の恋愛レッスン
「はい。ではまた、来週の水曜日に」



かく言う私も、平然と笑顔を作ってしまうのだから、立派なニセモノだ。

もう少しだけ一緒にいたいだとか、そういうことをさらっと言える乙女スキルは持ち合わせていないし、何よりそうさせない何かが、心の足枷になっている。



「あー。気ィ付けて帰れよ」



彼はビジネス用の表情を解くと、振り返ることなく、終電に急ぐ人波へと消えて行った。



「……なんなのよ、もう」



翻弄される。ビジネス用の彼と、プライベートの彼に。

こうも容易く切り替えられると、遊ばれているだけのような気がしてならない。



「帰ろ」



なんなのだ、一体。

私はなぜこうも、もやもやとしているのだ。


きっかけは強引だったけれど、彼と一緒に飲めて本当に楽しかったし、ドキドキもした。

思い過ごしかもしれないけれど、彼も少しは楽しんでくれていたように思う。

時折見せる意地悪な笑みには、何度心が揺さぶられたことか。

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