好きだからキスして何が悪い?
*なぜかアイツが気になるんだ*
Side◇如月 奏
高校受験に受かって、俺は新しい自分になることを決めた。
髪は少し伸ばして黒く染め、ビンの底みたいにぶ厚い眼鏡をかけて、制服もきっちり着こなして。
いつも俯いて、誰とも話さずに過ごす。
休み時間は机に向かい、それに息が詰まりそうになった時は、屋上でひとり優雅に時間を潰していた。
唯一、外で素の自分に戻るのは、誰にも見付からなさそうな年季の入った本屋でバイトしている時だけ。
いつもあんな姿をしていると結構疲れるから、バイトの時だけは気分転換したくてそうしているのだ。
店長はいまだに“ソウくん”と呼んでくるけど、それはそれでまた違う気分を味わえるから、案外心地良かったりする。
そんな人間──メガネクラなんて呼ばれるやつは俺だけだと思っていたし、卒業するまでずっと静かな高校生活が続けられるものだと思っていた。
同じメガネクラでも、心は純粋で俺とはまったく違う、
アイツに出逢うまでは。