好きだからキスして何が悪い?
「音哉くんのことがあってから、奏は自分の思うままに行動するのを、無意識に避けてるんじゃないの? ……そんなことしたって、苦しいだけだろ」


怒りから、眉を下げた哀れみの表情に変わる琉依。

彼が言っていることは、たぶん当たっていて。

俺は的を射抜かれたような感覚で、ゆっくり目線を落とした。


音哉があんなことになったのは、自分の感情に任せた行動のせい。

もうそんな過ちは犯さないようにと、知らず知らずのうちに、自分の気持ちに向き合わなくなってしまったのかもしれない。


はっきり指摘されて、黙ったまま汗をかくグラスを眺めるだけ。

そんな俺をまっすぐ見つめる琉依は、力がこもった声でこう言った。


「奏が素直にならないなら、菜乃ちゃんは本当に僕がもらうよ」


──ドクン、と大きく胸が波打つ。

きっとこれはハッタリなんかじゃない。

そう思わせられる真剣な声に、危機感を駆り立てられる。


琉依なら譲ってもいいと思っていたはずなのに、今の俺の気持ちはまったく逆だ。

誰にも、菜乃を渡したくない──。

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