好きだからキスして何が悪い?
気の毒な想いで俺も目を伏せると、音哉はあの時を思い返すように視線をさ迷わせる。


「奏や、パープルの皆に何も言わずに辞めたのは……たぶん、怖かったからなんだよな」

「怖かった?」

「お前達と連絡を取ったら、またあの中に戻りたくなりそうだったから。それが怖くて、真面目に仕事するためにあえて断ち切ったんだ。まぁ、同情されたくなかったってのもあるけど」


戻りたくなりそうで怖かったから……か。

アイツらから逃げていた俺にも、その気持ちはわかるような気がするよ。


「でも、実は琉依だけには極秘で連絡先を教えてあってさ」

「え!?」


突然明かされた事実に、マヌケな声が漏れた。

琉依はずっと知ってただと?

たしかに琉依と音哉も仲は良かったけど、なぜ!?


「“もし奏に何かあった時や、どうしても俺の助けが必要な時だけ連絡してくれ”って条件付きで。皆とはあっさり離れられても、やっぱり奏だけは心配だったから」


“兄貴”の顔を覗かせる彼に、俺の憤りも落ち着いていく。

俺のこと、見限ったりしたわけじゃなかったんだな……。

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