好きだからキスして何が悪い?
けれど、すぐに真面目な顔になってこう問い掛ける。


「あの時のこと、今でも気にしてんのか?」


ズキリと、胸の古傷が痛みだす。

強張る顔を俯かせて、弱々しく呟いた。


「……忘れられるわけねーじゃん。俺があんなことしなけりゃ、音哉に迷惑かけずに済んだのに」

「誰にも迷惑かけずに生きてる人間がいると思うか?」

「……!」


間髪入れずに放たれた音哉の言葉が、心の奥に届く。

はっとさせられて顔を上げると、彼は切れ長の瞳でまっすぐ俺を見据えていた。


「根は優しいお前のことだから、罪悪感とか遠慮とかくだらねぇモン感じてんだろうけど、いい加減捨てちまえよ。そんなもんずっと持ってても、何の得にもならねーぞ」


言い方はぶっきらぼうだけど、俺の渇いた胸に染み渡っていくような気がした。


不思議だ……音哉に言われただけで、今まで頑なに放そうとしなかった重荷が、本当にくだらないもののように思えてくる。

もう、いいんだろうか。

その荷物を自分の奥深くにしまい込んでしまっても……。

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