好きだからキスして何が悪い?
文ちゃんは声をひそめ、私の耳に顔を近付けて言った。

いつもの席に静かに座っている如月くんに目線を向けて、ドキリと胸を鳴らす私。


「う、うん、まぁ……」

「しかも白雪姫なんて超オイシイ物語じゃん! 皆なら絶対入れてくるでしょ」


「キスシーン」

と、そこだけやたら強調して囁かれ、一瞬にして如月くんの潤う唇が近付く様を想像してしまう。


ぎゃーー! 刺激が強すぎる!

ぼっ、と沸騰したみたいに熱くなった顔で、思いっきり否定する。


「そっ、そそそんなシーン入れられてもやらないよ絶対!!」

「やられるようにすんのよ! 本番までにそれくらい仲良くなっときなさい」

「そんな無茶な~」


文ちゃんの課題はいつも難しすぎるよ……。

やられるようにって、如月くんが私にキスしたくなることがあったら、世界滅亡するに違いないよ。

頭を抱えて唸る私を見て、文ちゃんはクスッと笑う。


「本当に恋に落ちたんだね。オトメになってるよ、菜乃」


なんだか優しげな声が聞こえて顔を上げると、彼女はからかうでもなく、どこか嬉しそうに微笑んでいた。

うぅ、顔が熱い……。

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