好きだからキスして何が悪い?
緩んでしまう口元を抱えた膝で隠す。

ふたりきりでいることが急に気恥ずかしくなってきて、とりあえず話題を逸らすことにした。


「それにしても、如月くん、よく反対しなかったよね」


それはもちろん劇のこと。

あんなふうに決められたら誰でも嫌がるだろうし、如月くんは私みたいに意気地なしの地味子じゃないのだから、はっきりものを言えるはずなのに。

おとなしくやらされているのが意外だと、ずっと思っていたんだよね。


すると、彼は後ろに手をついて空を見上げたまま、気だるげに答える。


「反対して別のものの準備手伝わされることになっても面倒だろ。セリフもないらしいし、ステージの上でちょっと動くだけにするからリハもたいしてしなくていいって言うし、それならその方がラク」

「そう、かもしれないけど、でも……」


『皆なら絶対入れてくるでしょ。キスシーン』

ふいに、さっきの文ちゃんとの会話を思い出すと同時に、如月くんの形の良い唇が目に入った。


わぁーダメダメ! また妄想しちゃう!

バッと顔を背けながらも、彼がどう考えているのか気になる。

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