笑顔の裏側に
誰がどう見ても、優等生、我が校の模範、そんな言葉がぴったりだった。

欠点なんて誰もなに一つ言わない。

ただ彼女を褒め称えるばかりだ。

俺はその生徒をもっとよく知りたいと思った。

そうして担任としてクラスを見ているうちに、麻生のことも少しずつ分かってきた。

確かに表向きはおとなしく何でもできる優等生。

そしてそれを鼻にかけるわけでもない。

だけどなぜだろう。

何かが違う。

何か引っかかる。

うまく言葉にできないけれど、何かがある。

直感的にそう感じた。

気づかれない程度に彼女をよくみてみると、その答えは意外にもあっさりと見つかった。

あの笑顔だ。

普通の人は何も感じないかもしれない。全然不自然でないし、穏やかに微笑んでいるようにも見える。

もともと美形のせいもあるだろう。

だけどふとした瞬間に顔から表情が消える。

決して誰にも気づかれないように。

最初は気のせいかとも思った。

それくらい本当に一瞬だった。

でもそれを見てからどんな笑顔を見ても今にも壊れてしまいそうな痛々しい笑顔にしか見えない。

心から笑ってない。

それがあいつの第一印象だった。

二人きりになったのを見計らって少し鎌をかけたが、予想外の反応だった。

単刀直入に言う俺も悪いが、完全に怒っている。

本人は全然気づいていないのだろう。

自分の心からの笑顔が消えてしまっていることに…。
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