笑顔の裏側に
あれから愛ねえはずっと無言だった。

じっと麻生のことを眺めている。

「少し話してみようかしら?」

「よろしく頼むよ。女同士の方が話しやすいこともあるだろうし。俺じゃあ、ダメみたいだからさ…。」

自分で言っていて切なくなる。

俺をもっと頼って欲しい。

だけどそれは無理なのか?

そう思いながら麻生の寝顔に目を向ける。

「弱気になってんじゃないわよ。大丈夫。私に任せなさい!」

愛ねえは何かいいことを思いついたのか、張り切っていた。

そして点滴が終わり、点滴を片付けると、麻生が目覚めた。

「起きた?」

「先生…。ここは…。」

初めて目にする光景に驚いているようだ。

「ここは俺の姉貴の病院。見てもらって点滴もしてもらった。」

「そうですか…。ありがとうございます。」

そう言う麻生は俺を見てくれない。

そんなに俺が嫌か?

「あら起きたの?というより起こしちゃった?」

重苦しい空気を壊すように点滴を片付け終えたのか愛ねえが戻ってきた。

「いいえ。大丈夫です。」

「そこの弟から聞いたと思うけど、私はこいつの姉の瀬立愛梨。今は結婚して四條に変わったけどね。愛先生って呼んでね。優美ちゃんって呼んでいいかしら?」

元気良くそう言った。

「はい。構いませんが…。」

「ありがとう。じゃあ、早速だけど診察させてね。歩、ちょっと一回出てって。」

え…。

俺はここに居ちゃいけないの?

目で訴えると、ウインクが返ってくる。

任せろってことか…。

俺はそのまま診察室を出て行った。
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