笑顔の裏側に
「あ、麻生さん。終わったよ。待たせてごめん。」

別にそんなに待ってないのに。

それに17:30からだから、まだ松本君の時間なんだけどな。

「ううん。今来たところだから、大丈夫だよ。」

そう言って微笑めば、松本君も安心したように微笑んだ。

「松本、何やってんだ?」

突然、松本君の後ろからひょっこりと先生が顔を出す。

「麻生さんと話してて…」

松本君が先生の方の振り返って言うと、

「そうか。麻生、少し早いけど、面談するぞ。」

先生は松本君を見向きもしないで教室に入ってしまった。

私は松本君に軽く会釈して、教室に入った。

「はい、そこ座って。」

先生の言い方がいつもより荒い。

どうしたんだろうか。

「失礼します。」

様子を伺いながら先生の真向かいに座る。

「なあ、松本と何話してた?」

「え…」

どうしてそんなこと聞くのだろう。

「何話してた?」

先生は私が何も言わないからか、同じ質問をもう一度繰り返す。

「何っていうほどの話ではないです。」

とりあえず返すと、先生はいきなり立ち上がって、

「荷物は置いたままで、俺についてこい。」

そう言ってすぐに行ってしまうので、私も慌てて追いかける。

何か怒っているのだろうか。

ちゃんと先生に言われた通り、一番最後に入れたし、特に何かした覚えはない。

いつもの雰囲気と違って少し怖かった。

今だって後ろからついてくる私を見向きもしない。

そんなことを考えていると、先生が1つのドアの前で立ち止まって鍵を開けようとしている。

英語科準備室だ。

「入って。」

その言葉でさえ、今の私にとっては冷たいように感じた。

言われた通りに部屋に入る。

ガチャという鍵が閉まる音がしだと思ったら、いきなり腕を引っ張られ、ギュッと抱きしめられる。

突然のことで言葉が出てこない。

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