笑顔の裏側に
何度目かのキスの後、そのままきつく抱きしめられる。

いつもより力の入った腕に先ほどの不安が再び過ぎった。

私も先生に答えるように、いつもよりギュッと腕を回す。

先生が手を緩めてキスをしようと顔を近づけてくると、私たちの雰囲気を壊すかのように炊飯器が軽快なメロディーを奏で始める。

「炊けたな。」

「はい。」

お互い微妙な空気のまま、そんな言葉を交わし、

「じゃあ、仕上げてきますね。」

そう言って私はキッチンに向かった。

炊飯器を開け、ご飯をラップに小分けにしていく。

その作業の間も胸はドキドキと忙しく鼓動を刻んでいて、落ち着かせるのに精一杯だった。

なんとかラップの小分けを終え、残るご飯をフライパンに入れて煮込み始める。

その間に御釜を洗い、お椀を用意して、出来上がるのを待つ。

先生に視線を移せば、何事もなかったようにテレビを見ていた。

その横顔はいつも通りで少し安心する。

ご飯がいい感じに柔らかくなったのを確認して、お椀に注ぎ、先生の元へ持っていく。

「おお、出来たか。ありがとう。」

「熱いので気をつけてくださいね。」

そう言えば、先生は何度も自分の息を吹きかけて冷ましてから食べ始める。

「うまいよ。本当にありがとう。久しぶりに朝からちゃんと食べられそう。」

そう言って微笑んだ先生にホッと胸を下ろす。

私も1口口に含んだ。

カット野菜だから野菜の旨味が全然出てないと思ったけど、調味料でどうにかなったみたい。
よかった。

先生は猫舌なのかしきりに冷ましていたけど、ゆっくりと時間をかけて全部食べてくれた。

手際よく片付けを終えてリビングに戻れば、先生はすでに仕事を始めていた。

私もそれに習って勉強の続きを再開した。
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